週末になると、店が少しにぎやかになります。
広い座敷には、子供たちの笑い声が響いて——まるで保育園のようだと、よく言われます。
でもね。
実はその“保育園みたいな光景”には、ある40年前の想いが息づいているんです。
与那原家が生まれたのは、昭和60年。
当時の沖縄はちょうど「インスタントラーメン」が家庭にどんどん広まっていた時代でした。
手軽でおいしい。おやつにも、ご飯代わりにもなる。
でも、それを見ていて、どうしても心に引っかかるものがあったんです。
——このままじゃ、子供たちが“そば”と言ったときに思い浮かべるのが、
湯を注ぐだけのカップ麺になってしまうんじゃないか?
沖縄そばは、うちなんちゅにとっての“ソウルフード”です。
その味が、家庭から消えてしまうということは——
沖縄の文化が、暮らしの中からそっと消えていくことかもしれない。
だから私は思いました。
「子供に最初に食べさせたいのは、本物の沖縄そばじゃないか?」と。
昔は「子供そば」なんてものは、どこにもありませんでした。
大人のそばを少し取り分けて食べさせるのが当たり前。
でもそれだと、大人も満足に食べられないし、子供には多すぎることもある。
私もやがて父になり、その不便さを身をもって感じました。
だったら最初から、“子供のための沖縄そば”を作ってしまおう。
そうして生まれたのが、創業当初からある、うちの「子供そば」です。
小さな器に、やさしい味。
子供でも食べきれるちょうどの量で、本物の出汁を使った沖縄そば。
40年たった今でも、そのメニューはずっと変わらず置いてあります。
最近はね、こんなことがあるんですよ。
週末にやってきた若いお父さんが、懐かしそうにこう言うんです。
「俺も、小さい頃これ食べてたんだよ」って。
気がつけば、“あの頃の子供たち”が、
今は親となり、自分の子供を連れてまた与那原家に来てくれている。
それを見て、思うんです。
「子供そばは、ただのメニューじゃない。家族の記憶をつなぐ“味の架け橋”なんだな」って。
そば屋で、文化と家族がつながる。
そんな場所であり続けられたことに、心から感謝しています。
さて——
次は、そんな沖縄そばの“味の要”とも言える、“出汁”のお話をしましょうかね。
また、そばにまつわる“ちいさな物語”を、聞きにきてください。